米富繊維株式会社の自社ブランド〈COOHEM(コーヘン)〉とROPÉとのコラボレーションコレクションが9月27日に発売。この協業をきっかけに、ROPÉのクリエイティブディレクター齊藤 智が、山形県にある米富繊維の工場見学へ。ユニークな編み地の開発力、ファクトリーブランドを支える生産形態、県内外から集結した約60名の働く人たちの様子とは。
米富繊維株式会社の代表でクリエイティブディレクターの大江健氏と営業部の今田幸大氏が工場内を案内してくれました。

米富繊維株式会社
1952年に創業したニットメーカー。ウィメンズとメンズニットの企画、製造、販売を行い、自社内にニットテキスタイル開発部門を有する。OEMとODMを請け負い、さらに〈COOHEM〉他2つの自社ブランドの3事業を展開。自社ビルにニット工場と事務所を構え、2022年にはコンセプトストア「Yonetomi STORE」をオープン。ローゲージ主体の生産キャパシティを有し、複雑なサンプルを修正しながら編み進める技術と同時並行して量産できる体制を誇る。
創業72年の老舗、
米富繊維の工場について
米富繊維が工場と本社を構えるのは、人口が1.5万人ほどだという山形県東村山郡山辺町。外部から注文を受けたOEMのほか、COOHEMをはじめ3つの自社ブランドでは、ニットの領域を押し広げるような自由なクリエーションを行っています。
そんな異彩を放つ米富繊維の工場は、若手からベテランまで59名のスタッフが働いています。工場のニットが完成するまでの工程は主に6つ。①編み地の開発→デザイン(デザイナー)→パターン作成(パタンナー)→②編立(実際に機械で編むこと)→③検反→④裁断→⑤合標を付ける→⑥縫製→⑦検品・出荷。スタッフ3名が1チームとなって、各セクションで作業を進めていきます。
また、米富繊維のニット作りの特徴として、『カット縫製』と『成型編み』のふたつの方法で行われています。前者の場合、一枚の生地のように四角形に編んで、それを型紙通りに裁断してパーツにし、各々をミシンで縫い合わせます。つまり、Tシャツと同じ作り方。一方で、後者は最初からパーツの形状に編んで、各々を一目一目編み合わせて形成するクラシックなセーターの作り方です。

01. 編み地の開発
ニット工場としては珍しく、編地開発部門を社内に有する米富繊維。ニットを作るときも、編み地の開発から始まるといいます。OEMの場合はデザイナーから写真などイメージを渡されて編み地を開発し、ときには具体例として素材や編み地のサンプル、洋服からアイディアを得て作ることもあるそうです。〈COOHEM〉の場合は、編み地ができたらデザイナーに渡してニットのデザインに落とし込み、その後はパタンナーの手に渡り製図がなされます。
米富繊維株式会社営業部 今田幸大(以下K) 柄組み機で柄をプログラミングする際は、編み地一目一目をピクセル状のデータにしていきます。ピクセルは赤が表目、緑が裏目というように、色によって編み方が変わります。
ROPÉ クリエイティブディレクター 齊藤 智(以下S) 編地開発部署は何名くらいのチームなのですか?
K 編み地のデータを組むことはとても難しい作業で、機械を使いこなせるようになるまでに10年はかかります。11名スタッフがいますが、いろんな作業を兼任しています。会長(2代目)の代から在籍しているベテランの開発室長だけは、この部門に特化したスペシャリストです。




02. 編立
編み地のデータが完成したら、全自動横編機に読みこませ、実際に編んでいきます。まずは、試編みから。A4くらいのサイズを編んで、使用する糸と編機が適正かを見極めます。問題がなければ、ファーストサンプルの作成に向けパーツを編んでいきます
K 1ゲージは、1インチ(2.54cm)平方あたりに編み針が何本入るかを表す単位。3本入ったら、3ゲージになります。この数値から編み地の大小、糸の太さや細さがわかります。我々の工場では約半数にあたる20台がローゲージ用で、ローゲージに特化した機械の構成にしています。かなり特殊な機械背景ですね。理由は、太い針を使うといろんな糸をミックスしても対応できるんです。10〜12ゲージだと使える素材が自ずと細い糸に決まり、可能性が狭まってしまうんです。
米富繊維株式会社代表 大江 健(以下O) 複雑なテープやファンシーな糸を使うことが多いので、全自動横編機の針にひっかかったり、うまく編めないことがよく起こります。なので必ず試編みを行い、機械に設定されたガーメントで編んで傷や風合いに問題がないかチェックします。いきなりサンプルを作ろうとしても失敗したら、時間や材料をロスするしコストもかかるので、試編みは大事な行程です。
S 全自動横編機は、1日に何時間くらい稼働させているのですか?
K 量産する際は24時間回すこともあります。一人、夜勤をするスタッフがいます。全自動横編機でも糸の補充や、糸を切り替えてつなげる作業は、人の手でしかできないんです。繁忙期は土日も稼働させています。
O 無地の天竺編みのクルーネックなら60分で編みあがるのですが、ジャケット1着分のパーツを編むのに200分かかります。だいたい3〜4倍かかってしまう。横に機械が動いてニットは出来上がるので、柄が左右非対称な柄だと、糸の切り返しが増えて時間がかかるんです。ローゲージだと編み目が荒くなるので早く編めますが、ハイゲージだと編み目が細くなるので時間がかかります。

03. 検反
編んだ生地を、縫製に出す前に光に当てて検査。一枚一枚、傷やほつれがないかを確認していく作業です。
K 全自動横機を使っているので、一枚の生地にほつれがあると、他の生地にも同じ問題があることが多い。傷を見つけた場合、人の手で補修することもあります。また、最近は糸の染色の際にコーンに巻いた状態のまま行われるケースが少なくなく、編地全体に色ムラが出ていないかもチェックします。

04. 裁断(カット縫製の場合)
『カット縫製』でニットを作るときは、四角に編んだ生地を裁断します。柔らかいニットを裁断機で切るには、熟練の技術が必要です。
S カット縫製は、カットソーのようにニットを作る方法。最近は“ニットソー”とも呼びますが、まだまだニット工場に型紙があることは珍しいと思うんです。ニットはデリケートなので、カットする場所を最小限にしないと生地が崩れてしまう。そのバランスも経験があってこそできることだと思います。
K だいたいスタッフ3人ずつに分かれて、ラインで作業して様々な品番を同時に仕上げています。最近は品番は多くても、それぞれのオーダー数は少なめなことがほとんど。多品種少ロットに対応するため、このような方法をとっています。

05. 合標を縫いつける(カット縫製の場合)
ニットの生地がずれて、縫製時に身ごろの中心を見失わないよう黄色、ピンク、水色、オレンジなど目立つ色の糸で合標を縫いつけていきます。特にジャケットはパーツが多いので、注意が必要です。
S 様々なリスクを負い、効率性よりもクリエイティビティを優先したものづくりを行っています。うまく現場を回わす秘訣は?
O 普通だと、工場内で各ブランドに担当をつけて分担すると思うのですが、うちはそうせずにいろんなブランドや業務を担当するようにしています。なので、〈COOHEM〉の複雑なアイテムを担当することもあれば、割とシンプルな作りやすいアイテムを担当することもある。ずっと同じことをすると人は疲れてしまうと思うので。作業の内容を多様化すれば視野が広がり、スタッフのモチベーションを保てると思うんです。

06. 工業用ミシンで縫製する(カット縫製の場合)
一般的な工業用ミシンで叩いて、各パーツを縫い合わせます。縫い代ができるので、少し硬めの仕上がりになります。
S 一般的には、ニットをカットすることはチープな方法だと思われています。軍需品を作る時の大量生産用の仕様だった背景もあって、ニットメーカーではプロ意識としてやらない方がいいと教えられています。やはり、丁寧に編目を合わせて形にすることが良いとされているので。それを、大江さんがパタンナーさんを入れて綺麗に裁断することで、デザインにしたと思います。思い込みに囚われない、クレバーな発想ですね。
O ヨーロッパのニットブランドは、絶対ハサミを入れないと思いますが(笑)。全ては3,000円くらいのスウェットから始まったんです。クラシックなセーターは真面目なデザインだから毎日着られないけど、アームホールが大きくて肩が落ちて、張りがあって自分で洗える。形や手入れがスウェットと同じなら気楽に着られるし、ニットだからどこか上品なところもいいんですよ。
S 会社のトップがちゃんと方向性を握っていないと、現場は迷子になりそうなコンセプトですね。でも、大江さんが洋服好きで、作りたいものがはっきりイメージできているから、できることなんだと思います。

07. リンキングミシンで縫製する(成型編みの場合)
一方で、『成型編み』は各パーツの端の編み目を一つ一つ編み合わせてパーツを合体させます。ダイヤル式の14ゲージのリンキングミシンを使用し、ふわっとしたニットらしい仕上がりになります。

K ジャケットは、編みと縫製の作業に1日かけて1着仕上がります。カット縫製に比べると、糸のロスは少ないですが、アームホールを身ごろに手作業でくっつける作業はかなり細かく難しい作業です。編まれたパーツの端を一目一目針にかけるのですが、脇の寸法が決まっているので間違いが許されない。目も神経も使う作業です。
S 自社でリンキングまでできるのがすごい。最近は、海外のリンキンング屋さんに出すところも少なくないと聞いています。アイロンは、どのタイミングでかけるのですか?
K 編み上げた後のパーツは、くるくる巻いてしまうので縫いやすいよう縫製前にアイロンをかけます。あとは、縫製して仕上がったタイミングでもかけて、ボタンなどを縫い付けます。その後に、ネームタグや下げ札をつけて袋詰めをします。最後に検品を行い、出荷します。

アーカイブルームには、
過去の編み地や製品サンプルが並ぶ
工場を見学した後は、米富繊維が大切にしているのが、2万点にも及ぶ過去のスワッチや6千着の製品サンプルを保管するアーカイブルームへ。

K 編み地開発の部署があるので、アーカイブの保管は欠かせません。40年分の編み地のスワッチとそのデータを残しています。スワッチは、ゲージごとに並んでいます。中には、糸が廃盤になって再現できないものもありますが、そういうデザインも今ある素材に置き換えて作り直したり。ブランドのデザイナーがアーカイブを見て、過去のスワッチをもとにトレンドにあわせて、デザインをアップデートすることもあります。


O 製品サンプルは、製造された年代ごとに保管しています。ニットは、実際に糸を編んでみないと風合いがイメージしにくい。過去のデザインを参考にして、素材や編み方の組み合わせ方を変えて、他社のブランドさんに編み地の提案をさせていただくこともあります。他にも〈COOHEM〉の残反を保管しているのですが、これらを用いてクッションカバーやカードケース等を作って販売しています。
S ずっと、アーカイブルームを見てみたいと思っていました。圧倒される物量ですよね。代々引き継がれたアーカイブがあるからこそ、新しいアイディアが絶えないし、デザインの特殊解を出し続けることができるのでしょうね。

山形の豊かな自然に囲まれて
米富繊維の工場がある山辺町は、周囲に高層ビルは一切見当たらず、河川沿いにのどかな田園地帯が開けています。なだらかな東傾斜面には市街地が形成せれ、町の西部の中山間地域は、大小の湖沼が点在し、緑豊かな森林や湧水とともに美しい自然景観が広がっています。

S 山辺町の風土に少しでも触れられて良かったです。デザイナーとして、どういう地域でどんな時間が流れているかを知るのは非常に大切なことだと思っているので。合理性ばかりが先行する時代に、新しいものを要求すると、全方位的にエネルギーと時間がかかるはずなんです。それを可能にする、人と環境がここにはあるなと。
O 東京にも支社はあるのですが、ほぼ営業のスタッフしかいないんです。やはり、この地で、ここに住む人たちとこの工場で顔を合わせて、ものづくりをすることで、できるものがあると考えています。これからも人とのコミュ二ケーションを大切に、先代から続くニット作りに取り組んでいきたいと思っています。
