ジュリア・ショートリード(Julia Shortreed)とローザ・アンシュッツ(Rosa Anschutz)によるユニット、Quantum Orange。音楽性はもちろん、パーソナリティも共鳴しあうふたりが、この夏、東京で初めてのライブを行った。
まだ、ユニットとして公に走り出したばかりの彼女たちに、ROPÉのFALL COLLECTIONから2人のお気に入りを着用してもらいました。
Quantum Orange
東京を拠点に「Black Boboi」のメンバーとしても活動するジュリア・ショートリードとベルリン在住のアーティスト、ローザ・アンシュッツのユニット。今年7月に1st EP『Dip-Dye』をリリースし、初のライブも開催。
Instagram: @qo.info
—— Quantum Orange (略称QO) という、ユニット名の由来はなんですか。
Julia Shortreed(以下J) 最初にロザがこの名前がいいと提案してくれました。Black Boboiも色が入っていて、また色とリンクする名前かと少し悩んだのですが、何度も口にしているうちに愛着が湧いてきました。QOという響きやQuantum =量子という単語も好きだし、レアなことに調べても同じ名前のバンドがいないとわかったので、これでいこうと。
Rosa Anschutz(以下R) 離や時間を超えて友情を分かち合う私たち2人を表す名前としていいなと思ってこの名前をジュリアに提案しました。ベルリンでショッピングしているときに入ったブティックのおばさんに、このバンド名どう思う?って聞いたこともありましたね。紙に書き出して、文字の並びを一緒に考えてくれて。最終的に「Quantum Orangeがいいんじゃない?」と言ってもらいました。
—— QOと文字が二つ並んでいるのは、女性二人が一緒にやっているユニットいうイメージなんでしょうか。
J 2つ並んでいるのは、人体でいう肺もそうですね。私たちの歌詞に「心からそれを語らない限り、すべてを肺から吐き出せばいい」というフレーズがあって。QOという文字の並びと肺という臓器、どちらも大切なもののヴィジュアルとして、頭に浮かんできたんです。私たちにとって、ふたつということは大事なイメージですから。
—— 2人の出会いは、2016年にロザさんが日本に来た際にと伺っています。すぐに意気投合したのでしょうか。
J Hot Buttered Recordのオーナーが、「ロザというミュージシャンがベルリンから日本に来て、ライブをうちでやりたがっているんだけど、ジュリアと音楽性が合いそうなんだよね」と教えてくれたんです。実際にロザの音楽を聴いたらすごく好きで、一緒に何かやりたいと思いました。そのライブで会ったのが、すべての始まり。ロザはとてもチャーミングで愉快なキャラクターだから、ライブ後の喫煙所でとっても話が弾んだんです。その後オイスターバーでの打ち上げでも、仲良くなって「ベルリンに来てね」「また、東京にも来てね」と約束して別れました。その後、2017年にベルリンへ行って、2週間くらい家に泊めてもらいました。ロザはバーで働いていて、タイミングを見て遊んだりして。その年の夏にまたロザが日本に来て、「せっかく行くならツアーがしたい」というので、大阪、京都、福井、金沢を、お互いソロとして一緒に周りました。
R 制作面では、ソロで『interior』というアルバムを制作しているときに、ジュリアに一曲参加してほしいとお願いしたのが始まり。ベルリン政府から助成金がおりたら、一緒にレコーデイングができそうだから、またベルリンに来てよと。ただ、パンデミックや助成金の件で後ろ倒しになってしまい。
J 私はもう気持ちだけは高まっていて。夫にも、出産を頑張ったからベルリンに行く!と宣言していましたし。で、ようやく昨年の5月に、ベルリンでお互いのこれまでのやり取りしていた音源を録音することに。計画したというより、ナチュラルに取り組んでいった感じでしたね。
R 『7』という、EPの2つ目の曲は、ツアー中のリハーサルでできた曲です。そういう曲が2つ3つあって。プロデューサーのヤンにジュリアが来ていると伝えて、すぐにスタジオをとってレコーディングを始めました。1日で4曲録り終えて、EPとして形にしました。この2ヶ月は、QOとしての初めてのライブもするから物販も充実させたいと思って、zine、古着を脱色したTシャツなど多くのものを一緒に作りました。ジュリアといると、アイデアが次々と浮かんできて、楽しい!というエナジーがクリエイションに導いてくれるんですよね。
J 全部やりきった瞬間はふたりでぶっ倒れました(笑)。お互いオンライン上で作業を進行するのが苦手なので、離れているときはなかなか形にできないんですけど。会うとあれもこれもとアグレッシブになるんです。

—— ソロとユニットで、取り組み方は違いますか?
R 一緒に活動する人がいるとお互い助け合えますし、「これはどうかな」っと思ったときにすぐに、聞いてもらえるのが嬉しいですね。ジュリアのテイストを信じているので。クリエティブのベストパートナーだと思っています。ソロだと、「この音楽が好きかどうか教えて」と友達に聞いてフィードバックをもらうこともありますが。それはどちらかというと一般的なリスナー目線です。
J 好きな音楽が似ていることや、ソロのテイストも共通点が多いので曲を作る時は一人で制作しているよりスムーズに進みます。ロザが歌ったメロディーに新しくインスピレーションをもらって、次のメロディーがすぐ浮かんできたりして、編み物をしていくみたいに作っていけるので、とても楽しいですね。
—— それぞれの性格に関してはいかがですか。似ているのか、正反対なのか。
R 一番の大きな違いは年齢だと思います。14才も年が離れています。初めて会ったときは、私は19才で、人生に対してたくさんの疑問があったんです。なので、経験値があるジュリアを見て、年齢を重ねることを学んでいます。
J 最初は、「よし、任せろ」とか「やってあげなきゃ」と思っていました(笑)。甘え上手だし、歳が離れた妹みたいな感じで。今は私に子供がいるので、「それは自分で頑張ってやってみて」と言うことも増えました(笑)。許しあえる部分があるというか。性格のバランスはいいのかもしれませんね。
—— ぶつかることは、あまりないんですね。
J あまりぶつかったりはしないよね?たまに私がリハーサルでやりすぎてしまう場合をのぞいては(笑)。何か音を足せるかなとシンセサイザーを弾いてみようかなと思ってやってみたことがあったんです。でも音を間違えたりして、「ちょっと歌えないからやめて」とロザに言われたことがあって。
R そう、リハーサルでね。「ああ、また始まったわ」と思ったの(笑)。
J ロザに「大丈夫、何もすることがなくてもパフォーマーの顔をして、立っていればお客さんは何も思わないから」って言われて。私は音をもっと重ねて面白いことできないかなと思って、新しいアイデアを詰め込まなきゃいけないと思っていたんですよね。でもロザに、「余裕がないならやらない。ステージに存在することを楽しむ」ということを教わりました。
R たまに姉妹の立場が逆になることはあります。プロデューサーに、ショーは一回きりのものだから、挑戦するものではないと教えられてきました。自分が自信を持ってステージに立つことが大事なので、新たにやってみたいときはもっと、余裕があるタイミングにしたほうがいいというポリシーなんです。ステージで余裕があると、楽しむことができるしね。実際のライブでも、音楽に集中して没入できて、いい瞬間を過ごせたと思う。
J いい時間だったね。ロザが6月末から日本に来て作った新曲たちは打ち込みで作っていたのですが、wall & wallのライブではパーカッショニストのTaikimenに参加してもらいました。時間のない中でQOの音楽を噛み砕いてくれて、それぞれの曲にあったアプローチを考えてくれました。彼と一緒にQOの初ライブをできて本当に感謝しています。

—— ローザはトランスメディアートを学んでいるとのことですが、楽曲とリンクしている部分はあるのですか。
R 毎回、一枚のアルバムに対して、一つのアート作品を制作しているんです。今年リリースしたアルバム「Interior」はスパンコールを使って、「イメージはどこから来るのか」をテーマに作品を作りました。すごく抽象的な絵と、ぱっと見で木の実や鳥に見えたりするもの。両方をピクセルで描いていくのですが、これは美術用語で、オールオーバー(全面を覆い尽くす技法)という手法です。それをオールオーバー=至るところと捉えて、いろんなところに光が飛び散るものとしてスパンコールを用い、さらに全身スパンコールのキラキラしたドレスを着た女性に対して持つ偏見を皮肉って、制作しています。イメージは、どの瞬間からそのものに見えて、どの瞬間から抽象的に見えるのか。何でも、一度引いて見ると何かわかるけど、近づくと何かわからなくなったりする。その境界線はどこにあるのかについて探求しているんです。さまざまなモチーフにフォーカスした作品群を、最終的に一枚絵に仕立て、ライブの時にステージに飾っています。
—— ふたりが毎日を過ごす中で大切にしていること、または楽しみにしていることは?
R 大切にしていることは、モラルと美学ね。歌詞を書くので、日記も毎日書くし、何を選ぶかをとても慎重に考えています。例えば、偶然に出会った人とはコラボレーションをしませんし、私の周りにいる人たちと活動を共にするようにしています。価値観が合う、理解者たちと過ごすことが、自分の内面には健康的だと思っているので。あと、私の家はベルリンにありますが、父の家が湖の近くのカントリーサイドにあるんです。そこにスタジオがあるので、曲を書いてまたベルリンに戻るという制作環境。その2つの拠点を行き来する生活を大切にしています。
J 子供と一緒に過ごす時間が長くなると、一人で外出することがとても尊くなるんです。映画やライブに行くということも、昔以上に貴重なことに思っています。つい忙しいと、「もう行かないでいいか」となっちゃいそうになるのですが、子供を夫や義母にお願いして、外に出てインプットする時間を確保することで、心の健康を保っていると思います。
—— 他にアーティストとして大事にしていることは?
J 好きな服を着ること。その時の気分を感じて着たいものを選ぶので直感力を鍛えられると思っています。季節を先取って買うことが苦手なので、お店に入っていいなと思ったものをぱっと買うことが多いですね。一点物に弱いので、珍しいデザインや昔の古着をよく手に取っています。こんな大きなブラウス、今はあんまりないよねとか、こんなボタンは見たことないねというように。一度、気にいると捨てられないんです。
R よくジュリアと一緒にショッピングに出かけます! 今回も、東京でたくさん買い物してしいました(笑)。ショッピングは、イマジネーションを働かせながらするから、クリエイティブな行為ですよね! 直感的にいいと思うと、値段が多少高くても、『ライブも近いし』って自分に言い訳してゲットしちゃう(笑)。何ヶ月も前から、衣装を何にするか考えちゃうタイプなんで、ポピーフラワー柄やスパンコールのヴィンテージドレスでワードローブがいっぱい!
J あまりの買いっぷりに大丈夫そう?って思っていましたが(笑)。服って誰かが作ったものだから、そこに必ず意思がある。古着だったら、前の持ち主のムードが宿っていたり。イメージが湧くものですよね。そういうこと込みで、服が持つ女性像に共感して購入することは多々ありますね。それは、デザイナーズブランドも一緒。着ることによって、ものすごくパワーをもらえる。
R 色を纏うことと同じですよね。そのときのメンタルに合う色を着て、心を保っているというのはありますから。今日のアウトフィットは、このブーツが最高。衣装にもいいかもしれない。
J ステージ上で自分が着ている姿を想像するだけでワクワクするよね。そういう時間がいい未来へ連れて行ってくれるというか。ステージ衣裳を新たに手にいると、次の公演が決まったりするから不思議。セットアップが好きなのは、ユニセックスに着れて、媚びない女性のイメージがあるから。今着ているホワイトのセットアップもライブ映えしそうです。
R 衣装のドレスも、普段からよく着ます。家の中にいても、2、3回着替えることがあるんですよ。旅先でも同じで、東京でも気分を変えるために服をチェンジ。ベルリンから洋服をたくさん持ってきたけど、東京でもかなり買い足しました。
J そう、翌日に会うと思わず、「それ、かわいいね」と言いたくなるような服を着ていて。「それ、ベルリンから持ってきたの?」と聞くと「さっき、買ってきたの」という会話を何度かしました。常に服が新作だという(笑)。
—— 今後は、どのような活動が控えているのでしょうか。
J 今回はロザが日本に来て、QOとしての初めてのライブをしたり、Black Boboiとロザの対バンライブをしましたが、8月末にはBlack Boboiとロザ、もう一人ベルリン在住のEddnaという女性アーティストを交えて、ベルリンのフェス『Pop-Kulter』に出演する予定で、QOのレコーディングもしてきます。
R また衣装を探さないと! 今日のセットアップをふたりで着るのもいいかもしれない!
J 待って、まずは曲を作ってアルバムにしないと(笑)
ポージングから会話の掛け合い、言葉の抑揚まで、息がぴったりの2人。
洋服選びから撮影中まで、笑いとアイディアが絶えない楽しいムードに溢れている。
そんな朗らかさが、クリエイティビティを刺激会うベストパートナーと言い合える秘訣に違いない。
