SPECIAL SHORT ESSAY

SPECIAL SHORT ESSAY 女を育む、服

エディター・ライター 松本 千登世

ESSAY 17

ROPÉ mademoiselle

「裏切り」を楽しむ、女たち

ほどよいダメージ感のあるカットオフデニムに、華奢なアンクルストラップのフラットシューズ。視線を上に移すと、とろんと柔らかく、するんと艶っぽいサテン素材が美しい、黒のノーカラーブラウスの胸元を深めに開け、穏やかに輝く一連のパールネックレスを鎖骨に添わせるようにさり気なく。うわーっ、なんてお洒落なんだろう! 思わず息を呑んだ。まもなく60歳を迎えるという女性。彼女を慕う数人で誕生日をお祝いしたいと申し出たところ、「できるだけカジュアルな感じでお願いできる?」と、はにかみながら受け入れてくれたのだ。そうしてわくわくしながら都内のビストロに集まった、まさにその日。こんなコーディネイトで、彼女は現れたのだった。

席についてもまだ、素敵、素敵と大騒ぎし続ける私たちを鎮めるように、「じつは、ね」と、彼女。「これ、母から譲り受けたパールなのよ。しかも、母は祖母から譲り受けたという……。そう、『おばあちゃんパール』なの!」。一朝一夕には生まれない、深い艶、まろやかな色。もともと高価なパールが、時を重ね、人の思いや温もりを重ねて、さらに価値を増してきた「唯一無二」であることは、見てすぐにわかった。そして、ああ、なるほど、と合点が行ったのだ。私たちがはっとさせられた秘密は、ここにあった、って。 冠婚葬祭のきちんと感はもちろん、リトルブラックドレスに華やかさを添え、かっちりとしたスーツに女っぽさを添える、「育ちのよさ」を語り出すパール。でも、この人はあえて、ダメージデニムという、本来なら対極にあるはずの「やんちゃさ」を加えることで、彼女らしさを演出した。ちょっとした「裏切り」が自分を楽しませ、まわりを惹きつけることを知っているのだ。

じつは私、人生の節目節目で、迷ったり悩んだりすると、何でも彼女に「どう思う?」と打ち明けてきた。そのたび彼女は、私が思いもしなかった答えをくれる。「そうよね」と共感したり同調したりするというより、「こんな見方もあるんじゃない?」と、視野が狭まった私をふわりと持ち上げて、新鮮な視点に置き直してくれる、といった印象。その裏切りは、瞬時に心と体を軽くしてくれるもので、何とも心地いい。だからつい、彼女ならどう感じ、どう考え、どう動くのかを知りたくなる。抗えない魅力を感じるのである。

洋服の纏い方は、人生のあり方。彼女のファッションを見て、改めてそう痛感させられた。大人は、裏切りを楽しむ余裕があっていい。裏切りを重ねて初めて自分らしさになっていくのかもしれない、と……。 ちなみに、ロペ マドモアゼルの今シーズンのテーマは、「女っぽさ×ワル」だという。自分を見つめ直し、頑張りすぎず、「らしさ」を極めるアイテムやコーディネイトの提案だ。たとえば、フェミニンなレースワンピースにブラックレザーのライダースジャケットを羽織ってみる。まさに、そこにあるのは、心地いい裏切り。まずは、洋服で裏切ってみよう。裏切りにはっとしてみよう。それがきっと、大人が大人を楽しむ第一歩になるのだから。


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松本 千登世

松本 千登世CHITOSE MATSUMOTO

客室乗務員、広告代理店や出版社勤務の経験を経た後、フリーランスの美容ライターに。
自らの経験をもとに語られる、エッセイや美容特集は常に世の女性たちの注目を得ている。
著書に、『美人に見える「空気」のつくり方 きれいの秘訣81』(講談社)や、
『結局、丁寧な暮らしが美人をつくる。今日も「綺麗」を、ひとつ。』(講談社刊)などがある。