SPECIAL SHORT ESSAY

SPECIAL SHORT ESSAY 女を育む、服

エディター・ライター 松本 千登世

ESSAY 16

メイドインジャパンを纏う、女たち

まだ、編集部に在籍したころ。あるメゾンの取材で、パリを訪れたことがある。取材に対応してくれたのは、PRの女性。誕生以来、脈々と受け継がれる哲学について彼女の話を聞けば聞くほど、その奥深さに引き込まれていく。時代を超える美しさは、「伝統」と「革新」が縦糸と横糸のように織り込まれ、紡がれているのだと、心震えたもの。今、私たちが纏う「一枚」は、単なる洋服じゃない。決して大げさじゃなく、人が、女性が息を吹き込む「アート」なのかもしれない……。そう思うと、全身の鳥肌が立つような興奮に包まれ、同時に背筋がすっと伸びる思いがしたのだ。

そして、彼女が、最後にひと言。「あなたたちは、幸せ者よね。幼いころから日本のクラフトマンシップに触れて育ったのだから」。私たち日本チームに向けて、「尊敬の念を込めて」との言葉を添えながら、そう言ったのだ。聞けば、そのメゾンは、日本の職人技が生み出す素材やパーツを数多く採用しているのだとか。具体的にどこの何と名を挙げながら、それらがどれだけ優れていて、自分たちのクリエイションを支えているかを丁寧に説明してくれた。こんなにも素晴らしいものを生み出す文化を育んできた国の私たちは、唯一無二の才能と感性の持ち主であり、美しいものや質の高いものの目利きに違いないと、称えてくれたのである。

それに対して、私たちは……? 「誇らしさ」よりもむしろ、「後ろめたさ」を覚えていた。ああ、知らなかった。目を向けることすら、していなかった。我が国の素晴らしさを、皮肉にもずっと憧れていたフランスの女性に教えられるなんて! 私たちはもっと、メイドインジャパンを肌で感じなくちゃいけないんじゃないか。メイドインジャパンを纏ってその魅力を発信する使命があるんじゃないか。持って生まれた才能と感性を、もっと誇りに思っていい……。カメラマンとふたり、大きな「宿題」をもらったかのような気持ちで、帰路についた。

あれから何年が経つだろう? ロペが今シーズン、ジャケットやパンツ、タイトスカートに採用したメンズライクな先染めチェック素材に触れ、あの興奮を思い出した。この素材、じつは、愛知県の尾州で別注されて作られたものだそう。尾州は、古くから日本が世界に誇る生地の産地で、先染めやツイードなどで知られるという。さり気なく織り込まれ、光を跳ね返すラメにも、体のラインや立ち居ふるまいに美しく寄り添うタイトなストレッチ感にも、はっとさせられる。オーソドックスでクラシカルな素材だからこそ、そのクラフトマンシップがより際立つと、改めて実感させられたのである。

美や質の目利きとして、誇りを持って、選び、纏いたいと思う。今こそ、メイドインジャパンを。丁寧に作られたものを丁寧に、誠実に創られたものを誠実に。


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松本 千登世

松本 千登世CHITOSE MATSUMOTO

客室乗務員、広告代理店や出版社勤務の経験を経た後、フリーランスの美容ライターに。
自らの経験をもとに語られる、エッセイや美容特集は常に世の女性たちの注目を得ている。
著書に、『美人に見える「空気」のつくり方 きれいの秘訣81』(講談社)や、
『結局、丁寧な暮らしが美人をつくる。今日も「綺麗」を、ひとつ。』(講談社刊)などがある。