SPECIAL SHORT ESSAY

SPECIAL SHORT ESSAY 女を育む、服

エディター・ライター 松本 千登世

ESSAY 15

毒気で色気を操る、女たち

そのとき、私が担当していたのは、パリで暮らすおしゃれな女性の特集。ファッションからインテリアまで、数ページを割いてセンスをまるごと学ぼうという企画だった。コーディネイターから紹介されたのは、ワインボトルのラベルをデザインしているという、33歳の女性で、写真を見る限り、その年齢にはとても見えないキュートさが印象的。わくわくしながら、実際会える日を心待ちにした。

「ボンジュール!」。笑顔で出迎えてくれた彼女は、想像していたよりも声のトーンが低くてずっと長身。大人っぽくエレガントな雰囲気にはっとさせられた。さあ、時間もないし、進めましょう、とコーディネイターに促され、撮影開始。彼女がデザインしたボトル、手作りの料理とワイン、お気に入りのインテリアに囲まれて寛ぐ彼女をぱしゃっ。それだけで、どれだけ生活を楽しんでいる人かは、十分に伝わってきた。

その後、彼女の一日を追う撮影に。まずは、ボーダーTシャツにダメージデニム、レザーのライダースジャケットを羽織って、ドライブに行くシーン。次に、グレーともベージュともつかないシンプルな色のAラインワンピースに、直線的なスクエアフレームの眼鏡をかけて、仕事に行くシーン。最後に、リトルブラックドレスに大粒のダイヤモンドピアスをさらりとつけて、ディナーに行くシーン……。衣装を変えるごとに、女っぽさが溢れていく彼女に私たちは釘づけになったが、じつは、何より驚かされたのは、最後のシーンで、メンズフレグランスをしゅっと吹きかけたこと。えっ? メンズ? しかも、重みを感じさせるレザーノート。意外だった。  「私ね、女性は、ほんの少しだけ『毒気』を感じさせるほうが、色っぽいと思っているんです」。

聞けば、レザーやデニムも、スクエアフレームの眼鏡も、彼女にとっては「毒気」を演出するツール。レザーノートのメンズフレグランスは、まさにその究極なのだって。 「100%女っぽく仕上げるのは、例えるなら、レシピ通りの料理みたいなもの。ある意味、とても簡単だと思うんですね。ただそれが、自分にとって『美味しい味』とは限らない。むしろ、平均的でつまらないと私は思うんです。自分好みの味に、そして癖になる味にするためには、材料や分量を変えたり、スパイスを足したりと、アレンジしなくちゃ。そう、毒気=スパイス、なのかな?」

これがパリジェンヌなのか、これがフランス女性なのかと、正直、圧倒された。自分らしく服を着る。女っぽく服を着る。そうでないとつまらないし、意味も価値もない。そこに欠かせないのは、毒気……。この人をもっともっと、知りたくなった。ファッションやインテリアや仕事を超えた先にある、この人自身を。 今シーズン、ロペ マドモアゼルが提案している装いには、品のよさにくるりと包まれたほんの少しの毒気がある。だから、レシピ通りでない、ほどよいさじ加減でしか作れない色気が溢れ出すのだ。纏っているだけで「この人を知りたい」と思わせる、自分らしさと女っぽさ。着こなしにそれが見えたら、最上級の女……。

松本 千登世

松本 千登世CHITOSE MATSUMOTO

客室乗務員、広告代理店や出版社勤務の経験を経た後、フリーランスの美容ライターに。
自らの経験をもとに語られる、エッセイや美容特集は常に世の女性たちの注目を得ている。
著書に、『美人に見える「空気」のつくり方 きれいの秘訣81』(講談社)や、
『結局、丁寧な暮らしが美人をつくる。今日も「綺麗」を、ひとつ。』(講談社刊)などがある。