SPECIAL SHORT ESSAY

SPECIAL SHORT ESSAY 女を育む、服

エディター・ライター 松本 千登世

ESSAY 10

いい匂いがしそうな、女たち

たまたまふたりで立ち寄ったブティックで、「彼女」がひとめぼれしたWフェイスのローブコート。霞みがかかった空の色のような絶妙なグレー、飾りをすべて排除したシンプルなつくり、動きに寄り添ってふわりと揺れる軽やかさ、表面を光がするりと流れるような光沢感、そして、本能が静かに興奮するほど柔らかくしなやかな肌触り……。なんて、気持ちいいコートなんだろう! 隣にいた私も、その一枚に夢中になった。同時に、こうも思ったのだ。

「あれっ、こんなコート、もうすでに持ってなかったっけ?」

彼女は、私より15歳近くも下のヘア&メイクアップ アーティスト。出会いからはもう、10年以上が経つだろうか? 真摯な仕事ぶり、その背景にある高い美意識とずば抜けたセンスに一目置いている女性だ。会うたび、自分らしいスタイルを選び取り、着こなしている彼女に憧れ、密かに観察していた。黒、グレー、せいぜいキャメルやカーキ、ネイビーと、いつもベーシックな色。ボディラインにつかず離れずのベーシックなニット、メンズライクなシャツやパンツ、タイトなストレートやスキニーのデニム、ボックス型のワンピースにオーソドックスなトレンチコート……と、シンプルで上質な定番アイテム。仕事を終え、華やかな場に赴くときには、スニーカーをハイヒールに履き替え、鮮やかな色の口紅を足す。シックでエレガント、軽やかで自由。今の気分にフィットしながらも、時代を超える装い方がいかにも彼女らしいのだ。その「気持ちよさ」は、装いだけに留まらない。余計なものが何もなく、きちんと整理された部屋。そこにあるのは、オーダーして特別に作ってもらったというテーブルやメイクボックスなど、これからもずっと愛され続けるであろう唯一無二の宝物。そして、ふとした瞬間にふわりと漂う、柔らかな香り……。彼女自身に目を向けると、肌は艶とハリと血色に溢れ、とても笑顔が似合う。ボディは長身でメリハリがあってとても健康的。いつも清潔で透明感のある香りを纏っている。存在感もまた、気持ちのいい人。そう、いい匂いがしそうな人なのである。装い方は暮らし方、装い方は生き方。装い方はその人そのもの。改めてそう確信したのだ。

だから私は、無意識のうちに、冒頭のコートを彼女は「もうすでに持っている」と思い込んだのだろう。彼女がこの気持ちよさを纏っている姿が容易に想像できたのだろう。あの、柔らかな香りとともに、奥行きも含めて、脳の中で鮮やかに再現したのだろう……。

ロペのリバーウールローブコートは、まさにいい匂いがしそうな女性を想像させるコートだ。まるで大判のストールかのようにそのままふわりと羽織るもよし、ローブのようにベルトでウエストを締めてエフォートレスに纏うもよし。ミニマルをとことん追求したデザインだからこそ、このうえなく上質な素材だからこそ、「軽やかで自由」が叶う。「時代を超える美しさ」が叶う。私もいつか、このコート、もう持ってるんじゃない? と思われる人になりたい。いい匂いがしそう、そう思われる人に……。

松本 千登世

松本 千登世CHITOSE MATSUMOTO

客室乗務員、広告代理店や出版社勤務の経験を経た後、フリーランスの美容ライターに。
自らの経験をもとに語られる、エッセイや美容特集は常に世の女性たちの注目を得ている。
著書に、『美人に見える「空気」のつくり方 きれいの秘訣81』(講談社)や、
『結局、丁寧な暮らしが美人をつくる。今日も「綺麗」を、ひとつ。』(講談社刊)などがある。