SPECIAL SHORT ESSAY

SPECIAL SHORT ESSAY 女を育む、服

エディター・ライター 松本 千登世

ESSAY 07

「いい」「加減」な、女たち

ある婦人服ブランドが独自のサイズ表記に変えたところ、爆発的に売り上げが伸びた、という話を聞いたことがある。洋服のつくりはそのまま、ただそれまでのMをSと呼び、LをMと呼んだだけ。ただ呼び方を変えただけで、女性たちは嬉々としてその一枚を自分のものにし始めたというのだ。できることならMよりSでありたい、LよりMでありたい、少しでも小さなサイズに自分を入れ込みたい……。その「潜在意識」を逆手にとる思い切った改革が大成功を収めたというわけだ。じつはこれ、私たちがどれだけサイズの「呪縛」にとらわれているかについて、スタイリストの女性が語ってくれたエピソード。「ワンサイズ大きめが着痩せのポイント」が持論の彼女は、こう続けた。「図らずも、少し余裕のあるサイズを纏ったら、自分がいつもより何倍も綺麗に見えたんだと思うの。あっ、細く見える、あっ、背が高く見える。つかず離れずのサイズが、結果、その人のシルエットを細長く見せるって……」。「ボーイフレンドデニム」の定着もそう、最近ではニットやTシャツなどのトップも「レディスのLよりメンズのS」という選び方がトレンドになっているのもそう。どちらも、本当の自分より華奢に見える姿に夢中になったからに違いないのだ。

この「つかず離れず」に、大人の正解があると、彼女は言った。体にぴたりと張り付くアイテムは、肉感を強調する。そうとはいえ、お腹を隠したい、お尻を隠したい、結果選び取る、必要以上に甘いシルエットもまた、肉感を想像させる。その中間にある、まさにつかず離れずのラインは、不思議なもので、肉感をうまい具合にそぎ落とし、逆に骨感を強調し、想像させる。知性と感性に優れた大人こそが、その「絶妙」を見つけ出せるのだ、と。

ずっと感じていた。ファンデーションを塗りすぎると痛々しい、塗らないと生々しい。マスカラやアイラインに力を込めすぎると派手すぎる、何もしないと地味すぎる。赤の口紅をそのまま塗るとけばけばしく見え、ベージュの口紅をそのまま塗ると疲れて見える。メイクアップもファッション同様、つかず離れず的な見極めや調整が何より大切。あっ、それは生き方も同じなのかもしれない……。

ロペが纏う人を姿勢から美しくする理由は、その絶妙にあるのだと気づかされた。たとえば、オフタートルリブニットとタイトミディリブスカート。テンションのある素材で編まれた、太すぎず細すぎずの美しいリブ目は、上半身のラインに、つかず離れず。オフタートルでありながらオフになりすぎない立体感のある襟は、つかず離れず。すっきりしたシルエットにサイドスリットを施した少し長めのシルエットは、下半身のラインに、つかず離れず。カシミヤと並ぶ高級天然繊維、ヤクを用いたというニットガウンカーディガンは、纏っていることを忘れるほどふんわりと柔らかく体に寄り添い、つかず離れず。美しい品格に包まれた大人の色香は、このつかず離れずが生んでいる。生き方の姿勢をも美しい、そう思わせる秘密はここにあったのだ。

「手をかけた美しさ」と「無造作の美しさ」を緻密に計算して「いい」「加減」をクリエイトできるか。自分自身に問いかけたいと思う。もう一度、大人の美しさを創り直すために。
松本 千登世

松本 千登世CHITOSE MATSUMOTO

客室乗務員、広告代理店や出版社勤務の経験を経た後、フリーランスの美容ライターに。
自らの経験をもとに語られる、エッセイや美容特集は常に世の女性たちの注目を得ている。
著書に、『美人に見える「空気」のつくり方 きれいの秘訣81』(講談社)や、
『結局、丁寧な暮らしが美人をつくる。今日も「綺麗」を、ひとつ。』(講談社刊)などがある。