SPECIAL SHORT ESSAY

SPECIAL SHORT ESSAY 女を育む、服

エディター・ライター 松本 千登世

ESSAY 06

所作が美しい、女たち

「『見て美しい服』と『動いて美しい服』があるんだよ」。カメラマンの口から飛び出した思いもしない言葉に、はっとさせられた。ある撮影の打ち合わせでのことだ。見て美しい服は、「服」が目立ち、後者は「人」が際立つ。服の美しさじゃなく、人の美しさを撮りたい。だから、動いて美しい服を集めてほしいのだ、と。

こんなふうに言われたのは、初めて。正直、戸惑った。ファッションページの撮影なのだから、見て美しい服が、当たり前でしょう? そう信じて疑わなかったから。あれっ、でも……? 思えば、個人的に「この服、欲しい」と心を高ぶらせる写真は、決まって「服」じゃなくて「人」が美しく見えるもの。人を美しく見せて初めて、美しい服。逆説的だけれど、彼が言いたかったのはきっと、そういうことだったのだと思う。そのとき確信したのだ。ああ、動いて美しい服を纏いたい。動いて美しい人になりたい……。

以来、洋服選びの基準が大きく変わった。見て美しい服か、動いて美しい服かを真っ先に考えるようになったのだ。色や形、サイズやシルエット、開きや丈が自分に合うかどうかからさらに進めて、歩いてみて、座ってみてどうか? くるりと回ってみたり、小さくしゃがんでみたりしてどうか? きちんと着てボタンをしたらどうか? 肩にさらりとかけたらどうか? それまでとはまるで違う視点で「試着」をするようになった。動きを妨げない服、いや、動きたくなる服。そうして手に入れた一枚が、姿勢から美しくしてくれると信じて。

ROPÉの服を知れば知るほど、それはまさに動いて美しい服だと確信する。たとえば、カーディジャケット。オフィスで「着ると暑い、脱ぐと寒い」みたいなとき、カフェやレストランで肌の「露出」をちょっとだけ抑えたいとき、街歩きでエフォートレス感を演出したいとき。日常の何気ないひとこまで肩からさらりとかける「肩かけ」を、このうえなくエレガントにするための緻密な計算がある。裏側をめくってみると、肩周りにベルベットリボンが縫い付けられ、その逆毛を利用して、立っても座っても、バッグやファイルを持っても呼び止められて後ろを振り返っても、たとえ遅刻しそうになって走ったとしても、滑り落ちにくく、体の一部のように寄り添う仕様。だから、動きが妨げられることがない。落ちる心配が少ないから、背筋がすーっと伸び、所作が美しくなるのである。フェイクレザーのフレアスカートもそうだろう。ハリとしなやかさの絶妙バランスを叶えた素材とたっぷりとしたAラインを描く分量感が、動くたび空気をはらんで、まるでスローモーションのようにとろんと揺れる。しかも、表と裏の配色が異なるWフェイスだから、異なる色がちらりとのぞき、動きの残像になる。思わずその人を目が追ってしまう、そんな動いて美しい服なのである。

じつは、冒頭の言葉を発したカメラマンはこうも言っていた。「人を美しく見せる。ファッションって、そのためにあるんでしょ?」動いて美しい服、それはファッションの真髄……。
松本 千登世

松本 千登世CHITOSE MATSUMOTO

客室乗務員、広告代理店や出版社勤務の経験を経た後、フリーランスの美容ライターに。
自らの経験をもとに語られる、エッセイや美容特集は常に世の女性たちの注目を得ている。
著書に、『美人に見える「空気」のつくり方 きれいの秘訣81』(講談社)や、
『結局、丁寧な暮らしが美人をつくる。今日も「綺麗」を、ひとつ。』(講談社刊)などがある。