SPECIAL SHORT ESSAY

SPECIAL SHORT ESSAY 女を育む、服

エディター・ライター 松本 千登世

ESSAY 05

纏ってはっとさせる、女たち

「今日の肌、調子いいんじゃない?」

めったに褒められない肌を、褒められた日。いや、昨晩はちょっと寝不足気味だったし、今朝は肌作りに苦労したし、どちらかというと不調なんだけど、な。大人になってからというもの、「今日は絶好調」と張り切った日ほど「疲れてる?」と言われ、「今日は今一歩」と気にしていた日に限って、「元気そう」と言われるというパラドックスが起こる。やっぱり自分が期待したり心配したりするほど、まわりはディテールを見ていないもの。漠然とそう考えていたとき……だった。あれっ、そういえばこのあいだも、現実や思いと裏腹に、肌を褒められたんだっけ? 確かその日も、今日と同じトレンチコートを着ていたはず。すべての謎が解けた気がした。調子がよかったのは、「肌」じゃなくて、「表情」。褒められたのは、このコートを着た私の「印象」だったのだ、と。

それは、あまりの美しさにひと目惚れをし、清水の舞台から飛び降りるつもりで手に入れた一枚だった。「トレンチコートの似合う大人になりたい」と、人一倍強い憧れを抱き、だからこそそれまで決して妥協をしなかった私にとっては、思いっきり背伸びをさせ、立ち居振る舞いを矯正して、エレガンスを育んでくれるような、運命の一枚に思えたのだった。実際、このコートを羽織るだけで、無意識のうちに、ぴんと背筋が伸び、きゅっと口角が上がり、ぽっと頬が色づく。その様子がきっと、いつもの印象と格段に違っていたのだと思う。冒頭の言葉の意味は、きっとそういうこと。服はスキンケアを超え、メイクアップを超える。しかも軽々と。そう確信したのである。

姿勢から美しくする服があることを、改めて思い知った。姿勢から美しくする服しか欲しくない、そうじゃなきゃ意味がない、とまで思うようになった。これからは、それを纏うだけで、姿勢が変わり、表情が変わり、心持ちが変わる服にしよう……。それが大人の美しさを育む最短距離に違いないのだから。

ちなみに、つい最近の出来事。あるスタイリストの女性に、着る服に困るという内なる不満を込めて、「今日は雨の一日になりそうですね」とメールを送ったところ、意外にもこんな答えが返ってきた。

「今日は雨だから、明るい色のお気に入りを纏って行くつもりです……」。

思わず、はっとさせられた。ああ、この差が、すなわち、女の差。雨だからと服を諦める私と、雨だからと服を楽しむ彼女と。どちらが美しい大人になれるかは、誰が見ても明らかだろう。

もう一度、姿勢から美しくする服をきちんと纏いたいと思う。自分がはっとする、だから、まわりをはっとさせる……これこそが、大人の女の最上級。
松本 千登世

松本 千登世CHITOSE MATSUMOTO

客室乗務員、広告代理店や出版社勤務の経験を経た後、フリーランスの美容ライターに。
自らの経験をもとに語られる、エッセイや美容特集は常に世の女性たちの注目を得ている。
著書に、『美人に見える「空気」のつくり方 きれいの秘訣81』(講談社)や、
『結局、丁寧な暮らしが美人をつくる。今日も「綺麗」を、ひとつ。』(講談社刊)などがある。