SPECIAL SHORT ESSAY

SPECIAL SHORT ESSAY 女を育む、服

エディター・ライター 松本 千登世

ESSAY 04

脱いでも美しい、女たち

「ねっ? 身長はプラス3センチ、体重はマイナス3キロ。印象が全然、違うでしょう?」

あるファッションページの撮影で、スタイリストの女性が呟いたひと言だ。なるほど、写真で比較すると、その差は誰の目にも明らか。たったこれだけで、こんなにも印象が違うなんて……! 

モデルが纏っていたのは、少し肉厚でハリ感があり、とろんと柔らかい素材が美しい艶を放つ、肌色に近いベージュのブラウス。そのボタンをふたつ開けるか、あるいは、ひとつだけにするか、それによって見え方にどんな違いが生まれるのか、スタッフ全員でああでもないこうでもないと、試行錯誤していた。ヘア&メイクの女性は「もし、ひとつしか開けないんだったら、髪を無造作にまとめたほうがいいかも、ね」と言い、フォトグラファーの男性は「ひとつなら、思いきり寄りで撮ったほうがいいんじゃないかな?」と言う……。つまり、ひとつだと、不思議と首が短く見え、上半身のボリュームが強調される。ふたつだと、顔がコンパクトに見え、ウエストがすっきりと整う……といった具合に、たかがボタンで、全身のバランスがまるで変わって見えたのだ。結局、ボタンをふたつ開け、ほんの少し襟を抜いたエフォートレスな纏い方をしたカットに満場一致で決定。思わず息をのむ、美しい写真ができあがった。

このスタイリストの女性は、ことあるごとに私に言っていた。「身長も、体重も、3サイズだって、洋服の纏い方で印象は簡単に変えられるのよ」。素材の違いで肉感が強調されるか骨感が強調されるかが決まったり、色が赤みを含んでいるか黄みを含んでいるかで肌色が垢抜けて見えたりくすんで見えたり。私たちはなぜか、ひとつでも小さいサイズに自分をはめ込みたがるけれど、あえてワンサイズ上を選ぶことで、逆にシルエットが細長く見える場合もある。冒頭のエピソードのように、ボタンひとつ開けるか締めるかで、首の長さも胸の大きさも、腰の位置さえ変わる……。「脱いでも美しい」人に見える服の選び方や纏い方があるのだと、彼女は教えてくれた。服を知る=自分を知る。服を生かす=自分を生かす。それができる人こそが、センスがいい人。「脱いでも美しい」と想像させる女性こそが、極上。そんな服との関係を構築したい……。心からそう思ったのだ。以来、私は、選ぶときも纏うときも、もっともっと服と自分に真剣に向き合うようになった。

じつは撮影のあと、モデルの女性がこんなふうに語ってくれた。「バランスよく見えたのは、もしかしたら、ボタンの開きのおかげだけじゃないかもしれない、って思うんです」。ふたつ開けて着たほうがずっと「気持ちいい」と感じたこと。その気持ちよさによって、表情がふわっと柔らかくなり、背筋がぴんっと伸びたこと。カメラに向き合うとき、とても自由になれて、自分らしくいられたこと。つまり、彼女自身の姿勢が、身長も体重もまるで違うように見せたのじゃないかって……。

姿勢をも美しくする服がいい。そんな一枚を選びたい、纏いたい。なんだか、服にも自分にもわくわくしてきた気がする。このわくわく感がまた、姿勢に効く、美しさのスパイラルになる……そう信じて。
松本 千登世

松本 千登世CHITOSE MATSUMOTO

客室乗務員、広告代理店や出版社勤務の経験を経た後、フリーランスの美容ライターに。
自らの経験をもとに語られる、エッセイや美容特集は常に世の女性たちの注目を得ている。
著書に、『美人に見える「空気」のつくり方 きれいの秘訣81』(講談社)や、
『結局、丁寧な暮らしが美人をつくる。今日も「綺麗」を、ひとつ。』(講談社刊)などがある。