SPECIAL SHORT ESSAY

SPECIAL SHORT ESSAY 女を育む、服

エディター・ライター 松本 千登世

ESSAY 03

装いに満たされる、女たち

「『おしゃれな人』と『おしゃれに見られたい人』には、大きな差があると思うの」。

ある女性にそう言われ、どきっとさせられたことがある。当時私は、肌感や体型の変化から、いや、もっと漠然とした違和感から、それまでよりもずっとファッションに迷っていて、来る日も来る日も「着るものがない」が口癖になっていた時期。似合っていたはずのものが似合わない、わくわくしていたものにわくわくしない。白が清潔に見えないし、黒が艶っぽく見えない。ひと言で言えば、何を着ても垢抜けない、装いに満たされない……自分自身の中にあった「公式」みたいなものがことごとく通用しなくなって、途方に暮れていた。このまま一生、着るものが見つからないんじゃないかな? 大げさに聞こえるかもしれないけれど、それほどまでに焦りを感じていたのだ。まさにそんなときに出会った、この言葉。すべてが腑に落ちた。ああ、私は「おしゃれな人じゃなくて、「おしゃれに見られたい人 だったんだ。だから、着る服がなくなったんだ。こんなにも苦しかったのは、そのためだって……。

トレンドの服を身に着けていることが、すなわち、おしゃれな人。毎回違う服を身に着けている人が、すなわち、おしゃれな人。おしゃれな人に見られたいという潜在的な意識がいつの間にかそんな間違った定義を作り上げて、自分自身をがんじがらめにしていたのだと思う。「変わった洋服だね、どこの?」や「珍しいバッグだね、どこの?」を勝手に褒め言葉だと解釈していたことに、はたと気づかされた。もし、私自身が輝きを放っていたなら、こんなふうには聞かれなかっただろう。今になって、よくわかる。真におしゃれな人は、洋服やバッグだけが目立ったりしない。纏う一枚によって、表情がぱっと華やぎ、姿勢がすっと美しく見える。洋服の向こうに丁寧な生き方までも透けて見える。極端に言えば、身に着けている洋服を忘れさせてしまうほどに、その人に目が行く。おしゃれ=その人らしさが際立つこと……そう確信したときから、迷いが嘘のように消え去った。欲しい洋服がクリアになったのだ。

羽織るだけでバランスが整う、仕立てのいいジャケット。ボディラインに付かず離れず、心地よく寄り添うニット。華奢な体と凛とした表情を際立てるトレンチコート……シンプルでオーソドックス、クラシカルでラグジュリアス。その一枚とともに動く「私」は、きっと胸を躍らせているだろう。その一枚とともに生きる「私」は、きっと心穏やかに違いない。そう思える、自分にとっての「定番」を手に入れたいと思うようになった。装いに満たされるってこういうこと。そんな感覚がようやく肌でわかった今、私はファッションにまた、一からときめいている。

じつを言うと、冒頭の言葉には続きがあった。「『おしゃれな人』と『おしゃれに見られたい人』の差はね、『幸せな人』と『幸せに見られたい人』の差と同じなんじゃないかって……」。おしゃれでいたい。幸せでいたい。だから、姿勢から美しくする服に出会いたいと思う。ひとりひとりの輝きはきっと、そこから生まれるのだから。
松本 千登世

松本 千登世CHITOSE MATSUMOTO

客室乗務員、広告代理店や出版社勤務の経験を経た後、フリーランスの美容ライターに。
自らの経験をもとに語られる、エッセイや美容特集は常に世の女性たちの注目を得ている。
著書に、『美人に見える「空気」のつくり方 きれいの秘訣81』(講談社)や、
『結局、丁寧な暮らしが美人をつくる。今日も「綺麗」を、ひとつ。』(講談社刊)などがある。